第15回 為替マーケットコラム アベノミクスの正念場

為替マーケットコラム アベノミクスの正念場

アベノミクスの正念場

今回の感染拡大を通じて鮮明になってきたことは、安倍首相が主唱してきた経済政策、いわゆるアベノミクスがかえってアダになっているということです。1億総活躍といいながら、今回のコロナ騒動では女性と高齢者にしわ寄せが行っているのが明らかです。

労働力の不足から外国人をたくさん入れて、その人権もしっかりと守ろうとした入管法の改正もありました。

しかし相変わらず外国人は労働市場の調整弁になっているだけで、この2、3ヶ月で職を失った人はちゃんと日本政府が面倒を見てくれるのでしょうか。

 

アベノミクスでは成長戦略の一環としてインバウンドの増加を目指しましたが、韓国だけに限らず、最大のお得意様でもある中国からの旅行客も激減しました。

成長したいならば研究や開発などにもっと注力すべきであったわけですが、それを無視する形でインバウンドという短絡的な方向に舵を切ったツケです。

 

消費税の増税もいずれは免れないところなのですが、それでもこの緊急事態において減税もできないのはどんなものでしょうか。

伊勢・志摩サミットの時ときは「リーマンショック級の危機が到来した」という理由で増税を見送った経緯もあります。

しかし当時は欧米の株価が史上最高値を更新しているさなかでした。ドイツのメルケル首相などは「本当に今は危機なのか」のような顔をしていたことは記憶に新しいところです。

 

アベノミクスでは大胆な金融緩和と言いながらも、黒田総裁になってから一度も金利を変更していません。

量的緩和と言っても普通の生活人には感じられないものです。あげくにこの危機に臨んで打つ手がなくて何もできなくなっています。

 

GPIFの改革も裏目に出ています。株のポーションを増やしたものの、これが巨額の評価損を生み出しています。

GPIFの運用資金150兆円は余っているお金ではありません。団塊世代の受け取り用に積み立ててあるだけであって、20年以内には取り崩す必要のあるお金なのです。

どうやって現金化していくのでしょうか。マーケットの最大の重しになるのは、最初の計画の段階からわかっていたことなのです。

 

原油価格のマイナス

4月中旬に原油価格がマイナス領域に踏み込みましだ。

これが市場にサプライズを与えましたが、マイナス価格になったのは先物5月限であり、すでに中心限月ではありませんでした。

取引量も多くはなかったですし、満期が来て焦った小数のプレーヤーがポジション始末のための対応でしかなかったのです。

ですから先物の中心限月である6月限は普通の価格変動しか示していませんし、またスポット価格もマイナス転していません。

 

注目すべきなのは先物価格でマイナス領域であっても、相場が成立しているということです。

マイナスの価格を入力できるのだというのも驚きですが、マイナス領域でもちゃんと「ビッド-アスク」が並んでいるのです。

ですから「こんな値段はありえない」と思って「-37ドル」とかで買っても、次のオファーである「-36ドル」とか「-35ドル」が整然と並んでいるのです。

それらをこなさないと上がれない以上は、正式な相場を形成しているといえるのです。

 

原油価格がマイナスにまで陥ったのは、現物受け渡しに伴うキャリリングコストのせいです。

「先物価格=現物価格+キャリリングコスト」の関係がありますが、キャリイングコストはプラスのときもあればマイナスのときもあります

。キャリイングコストの中身は金利であるとか品貸し料、保管料などです。とくに原油の場合は保管料の効果が大きいです。保管料のポーションが高くなると、キャリリングコストはプラスになって影響します。

 

マイナスの値段に到達した5月限の原油先物をロングで持っていた人は、値下がりによるキャピタルロスに加えて、膨大なキャリリングコストを支払わねばならなかったのです。

原油先物は1か月先にいくに連れて、およそ5、6ドルもキャリリングコスト分がプラスされています。

ロングポジションにとってコストの増加はアゲインストを意味します。

3回もロールオーバーしようものならば、保有コストが価格そのものと同じになってしまうのです。

それではロング勢はたまりません。中国の石油需要が激減していることもあり、各地の貯蔵施設でのキャパが限界に達しているため、保管料の高騰につながっています。
マイナスの原油価格

 

ドルの価値

ドル円の動きがリスク相場の動きに連動しにくくなりました。

それはドル資金の手当てのためという切実な需給面からでした。

そこでコロナウイルスで米国株が急落している局面でもドル円が111円台まで上がってしまったのです。

それが最近の米国株の復調で、今度は逆方向の動きが期待できると見ることができます。

過度なまでのドル需要がなくなれば、まず先にドルの価値のレギュラライズが起こるからです。

 

ドルの価値を決める要因のひとつにドル金利があります。いうまでもなくドルの短期金利はゼロで、過去最低です。

長期金利も10年ものでずっと1%を下回っており、しかも当面は上がる気配がありません。

そうなってくるとリーマンショック後の激しい金融緩和のときと同じように、ドルの価値は低下に向かうものと思われます。
ドル円の日足

 

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持田 有紀子

持田 有紀子

<略歴>
慶応義塾大学法学部政治学科卒。国際政治及び東アジアの地域研究を専攻。

同大新聞研究所(現メディア・コミュニケーション研究所)修了。

野村証券入社。エクイティ部門の日本株トレーダーやワラント債、オプション課、営業課など。その後は人事コンサルティングの分野でも活動し、行動科学や心理学に基づく人事評価のモデルの開発等に携わる。

21世紀に入って起業した後は、海外の先物市場や外国為替取引のノウハウの蓄積を活用した投資情報の提供、セミナー講師、海外ファンドの運用、トレード塾の運営などを手がける。


<著作物>

「外国為替取引(FX)はこうして稼ぐ」 明日香出版

「日経225/日経225ミニ 日経先物取引の戦い方」 明日香出版社

「FX 練習帳」 実業之日本社 「夜の外国市場で儲けるテクニック」 明日香出版社

「FX 最強投資術」 実業之日本社 「利確と損切りのタイミングを読む」明日香出版社

「学校では教えてくれない投資と金融の授業」 明日香出版社


<連載コラム>

ザイFX「戦う女のマーケット日記」(ダイヤモンド社)
http://zai.diamond.jp/list/fxcolumn/mochida


<持田有紀子公式ブログ>

http://ameblo.jp/mochidayukikodesu/


<自己紹介>

野村證券の初期女性総合職としての兜村が、私の仕事の出発点でした。

金融マーケットに関わる人々やものごとの酸いも甘いも嚙み分けて、大規模な組織に属しない一個人でも、どうやったら戦い続けることができるのかを追求してきました。

金融マーケットへのアクセスは誰にでもかなり容易になった昨今、価値ある有意義な情報を一人でも多くの人に届けたいと考えています。

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